『母の最終講義』
最相葉月
発行:ミシマ社
四六変形判 176ページ
あの介護の日々は、母から私への教育だった――。
『絶対音感』『星新一』など傑作ノンフィクションの書き手であり、新聞の人生案内も人気な著者の、半生にじみ溢れる名エッセイ集。珠玉の47本。
最相葉月デビュー30周年記念企画
●本文より
「約三十年、介護とそれに伴う諸問題で心身共に限界だった時期もあるが、不思議なことに最近は、母が身をもって私を鍛えてくれていると思えるようになった。いざとなっても人工呼吸器や胃ろうはせず、自然に任せようと思っている。覚悟はあるのか、私。」(p26「母の最終講義が始まった」より)
「ああもう限界。酸素不足の水槽で口をパクパクさせる金魚のようになったら、一刻も早く東京に戻らねばならない。人に会い、原稿を書き、心を立て直す。その繰り返しである。交通費は、心身を健康に保つための必要経費と考えるようにした。」(p6「『余命』という名の時間」より)
「ひかえめだけど芯の強い自分と、出しゃばりだけど脆い自分は、一人の人間の中に共存している。仕事や家庭でさまざまな困難に向き合い、へこんだり笑ったりする時間を積み重ねるうちに鍛えられていく。」(p40「揺るがぬ岩より高野豆腐」)
目次
第一章 「余命」という名の時間
「余命」という名の時間/宗教を語る言葉が欲しい/島育ちのご縁から/ワクチン集団接種を前にして
第二章 母の最終講義
第二幕が開いて/母の最終講義が始まった/介護の知恵をつなぐ/手芸という営み/いつもすべてが新しい/揺るがぬ岩より高野豆腐/新しい日常は別世界/リモートで、さようなら
コラム ごくろうさま
第三章 相対音感
相対音感 共に生きていくために/季節ものが消えるゲリラサイン会/バイオミミクリー/宇宙探査を支える人たち/風呂敷に魅せられて/半世紀の恩恵/あえて、見ない、知らない、やらない/支援はいつもむずかしい
第四章 さみしい一人旅
さみしい一人旅/未熟な旅行者/枕をもって旅をする/カプセルで見る夢/「森のくまさん」を歌った日/コロナ下の教会で/闇に差す光
コラム ウソ日記
第五章 人生相談回答者
「する/される」を超えて/認知症者の片想い/御用聞きからしか見えない現実/正当にこわがる/歳末助け合いに思う/ヤングケアラーを探せ/心のもちよう、という前に
コラム 二番手の命
第六章 ありがとうさようなら
師/本を捨てる/たそがれの婚礼家具/オリーブの島で世界を考える/ドキドキをくれた人たち/コロナ禍とジャーナリスト/また会う日まで/競技場にて/絵を捨てる
あとがき
最相葉月 (サイショウハヅキ) (著)
1963年、東京生まれの神戸育ち。関西学院大学法学部卒業。科学技術と人間の関係性、スポーツ、精神医療、信仰などをテーマに執筆活動を展開。著書に『絶対音感』(小学館ノンフィクション大賞)、『星新一 一〇〇一話をつくった人』(大佛次郎賞、講談社ノンフィクション賞ほか)、『青いバラ』『セラピスト』『れるられる』『ナグネ 中国朝鮮族の友と日本』『証し 日本のキリスト者』『中井久夫 人と仕事』ほか、エッセイ集に『なんといふ空』『最相葉月のさいとび』『最相葉月 仕事の手帳』など多数。ミシマ社では『辛口サイショーの人生案内』『辛口サイショーの人生案内DX』『未来への周遊券』(瀬名秀明との共著)『胎児のはなし』(増﨑英明との共著)を刊行。